SAKHALIN ROCK から HIMALAYAN DUB へ
その新たなる音の旅路
Text・福井 浩(BALANCE/CULTURAL VIBES)
2010年12月24日代官山UNICEにて
BALANCE読者であれば、すでにその独自の音世界に触れている人も少なくないと思われるが、一応念のため、OKI DUB AINU BAND、及びバンドを率いるOKIについて簡単に触れておこう。
カラフトアイヌの伝統的な弦楽器トンコリに出会ったOKIは、その魅力に強く魅かれ、アイヌとしてのアイデンティティーを確認するために、消滅寸前だったトンコリを自ら製作、演奏方法を再構築する。 さらにそのオール電化を進めトンコリ奏者としての地位を確立したOKIは、海外のフェスへの出演経験などから、今日的なマナーとしてベース、ドラム、ダブミックス処理などを加えたバンド、OKI DUB AINU BANDを結成、数々の話題作を発表している。
OKIの弾くトンコリの幽玄とも言える根源的で幻想的な音色。沼澤尚ら名うてのミュージシャンによるグルーヴ感たっぷりの演奏。 ダブマスター内田直之の職人芸とも言えるダブミックス。それらが混然一体となって展開するOKI DUB AINU BANDの音世界は紛れもなくオリジナルで、世界のどこにも無いプリミティブな輝きを持って我々を魅了する。
また、口承をもってのみ語り継がれてきたものとされるアイヌ語を駆使するOKIの楽曲は、我々の耳に、時にミスティックに、時にエキゾチックに響く。 また、それらが多くの若者のリスナーに届くという事実は、消滅寸前とされるアイヌ語の文化的伝承という側面においても大きな意味合いを持っていることは間違いない。(※1)
OKIは昨年「これまでのアイデンティティーまで見つめ直すほどの体験ともなった」と語る、トンコリの源流を訪ねるためのサハリンへの旅を経験する。 今回は、その旅を通過し、すべてをリセットした上で臨んだ「SAKHARIN ROCK」へと至る流れの中でOKIが出会い感じた思い、そして、春先にリリースが予定されている次回作『Himalayan Dub』について、また、OKIがプロデュースしているアイヌウポポのグループMAREWREW(マレウレウ)の活動などについて、ネパール・ポカラでのフェスティバル出演へ向かう直前、昨年クリスマスイブの代官山で話を聞いた。
今回、東京ではどういったご予定があるのですか?
「NHKラジオの新春特番への出演、そして2日後にはネパールへ向かいます。」
ネパールではニューイヤーのフェスティバルへのご出演ですよね?
「トンコリのおかげでネパールにまで行ける。これは本当にありがたいこと。こんな時代に音楽で海外から呼んでもらえるということを、あらためてトンコリに感謝しなくてはいけない。」
これまでもヨーロッパ、アメリカ、アジア各地など、海外公演、フェスティバル出演を数多く経験しているOKI DUB AINU BAND。 今年は元旦早々からネパール・ポカラでのフェスティバルで一年の幕開けを迎える。
「トンコリがいろいろと機会を作ってくれる。旅が降って湧いてくる状況に感謝し、そこをもっと自分でも自覚しなくてはいけないと感じている。」
「ポカラのフェスは、9時には電気が消え、停電は日常茶飯事という街の何も無いようなところに会場、ステージを作っているらしい。そんなところにもありがたいと思って出かけて行くことが大事。そこでの体験や現地の人々に触れることがまた糧になる。」
ポカラでのフェスティバルは、OVERHEADSや蜃気楼など日本のフェスでは常連のチームも同行する大掛かりなものですが、ネパールの人々がそういったライブを観てどう感じるのかを知りたいものです。
ライブの様子などの映像は残さないのですか?
「フィルムクルーも同行します。今、OKIのドキュメンタリーを作るという企画があり、ポカラでのライブも撮ってきます。台湾やサハリンなどの映像も入るドキュメンタリーになる予定で、今、色々と身ぐるみ剥がれている状態(笑)。」
それは楽しみですね。 いつ頃、公開されるのでしょうか?
「様々な映像を撮り溜めている状態で、多分再来年(2012年)くらいになるのでは。」
このドキュメンタリーのスタッフは、これまで久保田真琴のPVや音響デザイナー・大野松雄のドキュメンタリー映画「アトムの足音が聞こえる」(5月公開)を制作しているスタッフとのことなので、音楽的な視点もしっかりとした、OKIの持つ深い音楽的、人間的な魅力が最大限に表現されるものになるだろう。 今から完成が待ち遠しい。(OKIドキュメンタリー映画製作中(2012年秋公開予定))

写真提供「シネグリーオ/大西功一」
DUB AINU BAND ポカラの街に参上の図(左から沼澤尚、居壁太、OKI、中條卓、内田直之)
アルバム『SAKHALIN ROCK』について、少しお伺いしたいのですが?
「『SAKHALIN ROCK』が出たことで、バンドの活動自体もよりしっかりしてきた。‘雨降って地固まる’という諺通り、アルバム一枚作ったことでそれぞれの理解も深まり、自分でもあらためてメンバーに対する思いや感謝の気持ちが募ってきた。」
OKI DUB AINU BANDは、いわゆる常に寝食を共にするようなバンドではなく、メンバーそれぞれが常に様々な活動を並行して行っているため、レコーディングやツアーの時に顔を合わせるということも珍しくない。 日本を代表するような超多忙なミュージシャン同士が集まっているのだから、それも無理からぬことだろう。
OKIが自身のホームページでのインタビュー(聞き手;サラーム海上 必見!)でも明かしているように、『SAKHALIN ROCK』はかなりOKIのソロアルバム的である。 楽曲によって参加しているメンバーも編成も違う。 しかし、これをOKI DUB AINU BANDの名義で出したことにこれからのOKIの決意を見たような気がした。
「制作中、一緒にやっているメンバーみんなから、‘これは本当にすごいアルバムになるのではないか’というお世辞抜きの言葉をもらった。これは、とても自信につながったし、光栄なこと。メンバーがDUB AINUを大事にしてくれていることがあらためて実感できた。」
「ずっとこの作品といたからどういうものになるのか」が今一つ実感できなかったと言うOKI。
「自分一人で必死に作っていたからジャッジが出来ない。ほとんど一人で作っていたようなものだったから。だけど、完成して後から気付いたのは、思いがけずメンバーみんなが心から褒めてくれていたということ。これは本当にうれしかった。」
そして、今一度、バンドとしての存在と相互の信頼を再確認出来たと言う。 メンバーとはいえ、それぞれが音職人として鳴らす名人級のミュージシャンからの賛辞を受けて完成した『SAKHALIN ROCK』。
実際、リリース後の各方面における絶大な評価がそれを証明している。
「『SAKHALIN ROCK』はレゲエをアイヌ的に咀嚼するということがテーマだった。最近はレゲエらしさを奥に追いやって、なるべく表に出さないようにするのがうまくなってきた。」
「俺はジャマイカ人ではないから。でもレゲエなんだよ。それでもジャマイカではないところで存在するレゲエをちゃんと真面目にやっているつもり。」
いわゆるレゲエの定型フォームとは離れた楽曲が多い印象の『SAKHALIN ROCK』だが、ミュージックマガジン誌における2010年国内レゲエ部門ベスト1という評価が示すように、レゲエ・ダブの表現の枠内においてしっかりとオリジナリティーを確立した傑作であることは間違いない。 以前から「自分たちのやっていることは世界ではスタンダード」と語るOKIだが、民族楽器や民族的メロディをダブやクラブミュージックのフォーマットに乗せた音楽は、ここ10年ほどで急激に広まった。 ネットの普及により、あらゆるダンスミュージックの型が世界共通の枠型となったため、急速な同時代性を持ってそれらは各地で作られるようになった。 しかし、それらの多くにはコンセプト先行の安易に作られたような浅薄な印象のものも多く存在する。 OKIの音楽のように自らのルーツと向き合いつつ、オリジナリティーを追求し、なおかつ時代の先を進むという、初源的でありつつ先進性も兼ね備えた高い完成度を持つ音楽は希少である。 それは『SAKHALIN ROCK』の中のどの曲を聴いてもすぐにわかるだろう。
次のアルバムはダブアルバム『Himalayan Dub』になるということですが?(※2)
「『SAKHALIN ROCK』に未発表曲を加えた形で、俺とウッチー(内田直之)が半分ずつダブミックスを行うものになる予定。3月にはリリースされるから、ネパールから帰ったら殺人的なスケジュールで作業をこなさなくてはならない。いわゆるウッチーとのダブ対決!楽しみにしていてください。」
DUB AINUの首謀OKIと、エンジニアの内田直之が「ダブミックスで白黒つける」DUB対決アルバムとなるという次回作。 それぞれが旭川、東京で別々に進行するミックスが一つとなり、世に出るのが3月。 自らが作り出したものをOKIがどう換骨奪胎し、ダブミックスするのか? 日本が誇るダブマスター、ウッチーとのダブ対決は本当に興味深い。 日本のみならず世界のレゲエシーンでも今やダブアルバムという形でのリリースは非常に貴重であるということも含め、これはなかなかなニュースと言える。 今からリリースが待ち遠しい。
3月のツアーはそのリリースツアーとなるんですね?
「そうです。静岡、横浜、名古屋、大阪など全国12カ所を回ります。ネパールから帰ったら、そのダブアルバムの完成と同時に、カナダの先住民族モホーク族出身の振付家サンティー・スミスと共演するダンス公演のサウンドトラックも完成させなくてはならないので大変です。」
ダブアルバムのリリースツアーというのも例外的だが、昨年の『SAKHALIN ROCK』ツアーで圧倒的なパフォーマンスを見せたOKI DUB AINU BANDだけに、今回のツアーも必見のものになることは疑いがない。
ぜひ会場に足を運んで、実際にOKI DUB AINU BANDのめくるめくアイヌダブの音世界に触れてみてほしい。
また、話に出たサンティー・スミスとは、ダンスカンパニー「カハーウィ・ダンスシアター」を率い、先住民族の精神性を舞台芸術で表現するカナダ人の演出家であり舞踏家。
OKI、MAREWREWの生演奏で繰り広げられるコンテンポラリーダンス公演「Susuriwka(アイヌ語で「ヤナギの橋」の意味)」は2月横浜で開催される。
「先住民族」というアイデンティティでつながる二人の出会いが作り出す舞台芸術を通じて、どのようなコラボレーションが見れるか楽しみだ。
最後にMAREWREWにも簡単に触れておこう。
その「Susuriwka」にも出演するMAREWREWはOKIがプロデュースするアイヌウポポの女性コーラスグループ。 アイヌウポポとはアイヌの伝統歌のことであり、ウコウクという、輪唱のように何拍かずらしながら数人で歌い継いでいくスタイルが特徴。 MAREWREWはナチュラルでプリミティブなトランス感覚を呼び起こすウポポと踊り(リムセ)をもって、アイヌルーツを忠実に再現する貴重なグループとして、国内外の評価も高い。
そのMAREWREWが主催しているウポポの祭典「マレウレウ祭り」が、2月東京に上陸する。
共演はUA。
DUB AINUのメンバーである居壁太によるアイヌ料理も出るという大ウポポ大会。
昨年の夏、渋谷でOOIOOと共演した際、あのOOIOOをもってして、やられた!と言わしめたあのライブをまた見ることが出来る。
歌と手拍子、踊りだけによる超シンプルな構成からは及びもつかない、深く広がるウコウクによりトランシーな陶酔感が味わえるはずだ。
OKIも参加するというこのライブも見逃せない。
サハリンへの旅から、『SAKHALIN ROCK』へ、そしてネパールを通過して『Himalayan Dub』へ。
OKI自身が「サハリンで、今までトンコリ奏者として築き上げてきたものが音を立てて崩れていった」と語るサハリンへの旅については、前述のようにサラーム海上氏とのホームページ上でのインタビューをぜひ読んでみてほしい。 OKIというミュージシャンの本質に触れることが出来るはずである。
連綿とつながるOKIの音の探求の旅路にこれからもぜひ注目してほしい。
OKI DUB AINU BAND Presents
「Himalayan Dub~Mixed by OKI vs 内田直之~」発売記念ツアー
3.6 (sun) 静岡 BLUENOTE1988(w / 光風&GREEN MASSIVE)
3.8 (tue) 横浜 THUMBS UP(w / DJ H☆F)
3.9 (wed) 名古屋 tokuzo
3.10 (thu) 心斎橋 club sound-channel(EXPE.NISHI INVISIBLE DUB)
3.13 (sun) 姫路 fab space
3.14 (mon) 出雲 Apollo(w / Dr.BREAKER)
3.15 (tue) 岡山 デスペラード
3.16 (wed) 米子 Live & Bar Hasta Latina(w / ROJO REGARO / BABYRONIA)
3.17 (thu) 広島 MUGEN5610 2F(w / ACE IN THE HOLE)
3.18 (fri) 福岡 the voodoo lounge(w / nontroppo)
3.20 (sun) 沖縄 ミュージックタウン音市場(「沖縄国際アジア音楽祭musix2011」)
4.15 (fri) 渋谷 クラブクアトロ(w / Little Tempo)
※4/15の渋谷クアトロはLittle Tempoとの共演が決定! OKI Official Website CHIKAR STUDIO webにて「4.15渋谷クアトロ公演チケット+CD「Himalayan Dub」限定セット」の先行予約が始まります。
詳細は下のバナーをクリック!
BALANCE読者の皆様へ
2011年4月15日の渋谷クラブクアトロ公演に抽選で2名様をご招待!!
こちらの応募フォームよりご応募下さい(2月10日まで)。


